ケンタウルス座銀河中心部の高温ガスの流れと銀河団の形成過程(大学院理工学研究科 田代信教授、寺田幸功准教授、勝田哲准教授 共同研究)
2025/2/26
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X線分光撮像衛星(XRISM)の観測成果に関する論文が、イギリスの科学雑誌「Nature」に2025年2月13日(日本時間午前1時)に掲載されました。埼玉大学からは田代信教授(XRISM PI)、寺田幸功准教授(XRISM Science Operation Team Lead)、勝田哲准教授(XRISM Science Team)が共同研究に関わっています。3名は、XRISM collaborationのメンバーとして、論文作成の議論に加わっています。また、田代教授は、XRISM衛星が行う科学観測の責任者として、実際の年末年始に行われたこの観測運用に携わりました。寺田准教授は、科学運用の責任者として、XRISM衛星全体の運用計画の策定や取得データの処理プロセスを行うチームの統括を行っています。
ポイント
- X線分光撮像衛星(XRISM:クリズム)の優れた分光能力により、ケンタウルス座銀河団の中心部に高速で動く高温ガスの流れの存在を世界で初めて発見した。(図1)
- 観測された高温ガスの運動は銀河団が成長過程で経験した衝突合体の痕跡を直接的に示すものである。
- 銀河団中心部の高温ガスの速度構造の直接観測は、数十年来の謎であった銀河団中心部の加熱機構の解明にも繋がる。
概要
私たちが暮らす宇宙は物質同士の間に働く重力等の影響を受けて、絶えず成長し続けています。星の集まりである「銀河」も、銀河の集まりである「銀河団」も暗黒物質(ダークマター)の重力によって形成されます。銀河団内では暗黒物質の強い重力に閉じ込められたガスが摂氏数千万度と非常に高温になりX線を放射しています。銀河団は衝突?合体を繰り返し現在も成長を続けていると考えられていますが、今回初めて、その直接的証拠を、XRISMにより銀河団中心部を観測することで明らかにしました。銀河団の中心部はX線で非常に明るいため、そのX 線放射によりエネルギーを放出してガスの温度が下がる(放射冷却現象)はずですが、温度が高く維持されていることが謎となっていました。この温度保持機構の解明の手がかりがガスの速度構造と考えられていましたが、観測装置の精度不足のため、これまで解明に至りませんでした。今回XRISM国際共同研究グループ(XRISM Collaboration、以下「研究グループ」という。)は、この高温ガスの速度構造を測定し、それが銀河団同士の衝突?合体の際に引き起こされる高温ガスの揺れるような動きに対応することを明らかにしました。そしてこの「揺れ」によって高温ガスが攪拌され、銀河団中心部の温度が適切に保たれていることがわかりました。
今回の高精度観測による高温ガスの速度に関する新事実の発見により、銀河団だけでなく宇宙に存在する様々な天体の形成と進化の理解が大きく前進するものと期待されます。
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図1: ケンタウルス座銀河団中心部の想像図。青みがかった色で高温ガスの流れを示している。
白で示したのは銀河、赤茶色は低温のガスを示す。
論文情報
タイトル | ケンタウルス座銀河団中心部の高温ガスの流れと銀河団の形成過程 |
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原題 | The Bulk Motion of Gas in the Core of the Centaurus Galaxy Cluster |
掲載誌 | Nature |
著者 | XRISM Collaboration |
DOI | 10.1038/s41586-024-08561-z |
URL | https://www.nature.com/articles/s41586-024-08561-z |