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研究トピックス一覧

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  • 病原性微生物の鉄硫黄クラスター生合成系を標的とする感染症治療薬の開発へ向けて
    -シクロセリンによる鉄硫黄クラスター生合成SUF系の必須酵素SufSの阻害反応-
    【大学院理工学研究科 高橋康弘教授、 藤城貴史 准教授】

病原性微生物の鉄硫黄クラスター生合成系を標的とする感染症治療薬の開発へ向けて -シクロセリンによる鉄硫黄クラスター生合成SUF系の必須酵素SufSの阻害反応-【大学院理工学研究科 高橋康弘教授、 藤城貴史 准教授】

2022年4月20日

概要

埼玉大学大学院理工学研究科の中村亮裕博士(2021年度博士課程修了)、小川翔子氏(博士課程学生)、髙橋康弘教授、藤城貴史准教授の研究グループは、多くの生物に必要不可欠な無機補因子「鉄硫黄クラスター」の"SUF生合成系"の必須酵素「SufS」 が、抗生物質「シクロセリン」によって阻害される際の特異な反応を、分子レベルで明らかとしました。SUF生合成系は、ヒトにはなく、多くの病原性微生物に利用されているため、今回の結果は、病原性微生物の鉄硫黄クラスター生合成系のSufSを標的とした新たな感染症治療薬の開発に重要な指針を与えると期待されます。

本成果は、4月8日に、生化学?分子生物学分野の国際誌である『The FEBS Journal』 (Impact factor=5.5)に、オンライン速報版(DOI: 10.1111/FEBS.16455) として公開されました。

ポイント

?鉄硫黄クラスターの生合成系の1つである"SUF生合成系"に必須のPLP依存型酵素SufSと、D-シクロセリン、および、その光学異性体L-シクロセリンとの反応の解析を行った。

?2つの異なるシクロセリンの光学異性体(D-体、L-体)のどちらもSufSの阻害剤となるが、それぞれで異なるSufS阻害生成物(PMPとPMP-isoxazole)が生じることを見出した(上図)。

?SufS変異型を用いた反応解析から、阻害生成物の種類を決定づけるSufSの活性部位の重要な残基を同定し、D -体、L-体シクロセリンによるSufSの阻害反応機構を、それぞれ明らかとした。

?一般的に、シクロセリンとPLP依存型酵素との反応では、その光学異性に関係なく同じ阻害生成物が生じるため、今回のSufSの例は、これまでにない珍しい例である。

?「シクロセリン光学異性体を認識するSufSの活性部位の珍しい特徴に注目し、その阻害機構に基づくSufS特異的な阻害剤の開発を行う」ことで、SUF系を持つ病原性微生物(例:マラリア原虫など)による感染症の新たな治療薬の開発が期待される。

原論文情報

掲載誌 The FEBS Journal
論文名 Cycloserine enantiomers inhibit PLP-dependent cysteine desulfurase SufS via distinct mechanisms
著者名 Ryosuke Nakamura, Shoko Ogawa, Yasuhiro Takahashi, Takashi Fujishiro
DOI 10.1111/FEBS.16455

用語解説

(1) 鉄硫黄クラスター:鉄と硫黄を構成要素とする無機補因子。光合成や呼吸など、多くの重要な生命活動に必須となる。

(2) 鉄硫黄クラスター生合成系:生物が、鉄硫黄クラスターを体の中で新規合成するための酵素反応システム。SUF、ISC、NIFの3種の生合成系が知られ、生物によって利用する系が異なる。SUF系は、マラリア原虫や結核菌などの病原性微生物や植物の葉緑体などに見られ、ヒトには見られない。ISC系はヒトなどの動物や一部の微生物などに利用される。また、SUFとISCの両方を持つ生物(例:大腸菌)もいる。一方、NIF系はピロリ菌などの一部の特殊な嫌気性微生物にのみ利用される。

(3)PLP: Pyridoxal-5'-phosphateの略語。ビタミンB6誘導体の1つ。有機補因子であり、PLP依存型酵素群の活性部位に利用される。

(4) システイン脱硫酵素:PLPを活性中心として有し、L-システインから無機硫黄を取り出す反応を触媒する酵素。SUF系のSufS、ISC系のIscS、NIF系のNifSなどが知られる。これらのシステイン脱硫酵素はどれも、無機硫黄を鉄硫黄クラスターの材料として供給するが、活性部位の構造の違いにより、さらにType I(例:IscS、NifS)とType II(例:SufS)に分類される。多くの病原性微生物はType IIのSufSを利用し、ヒトはType Iを利用する。よって、もしType IIのSufSにのみ作用する阻害剤を開発できれば、その阻害剤は新規な感染症治療薬となりうる(上図)。

研究支援

科研費 基盤研究(B)20H03204, 若手研究(B)17K14510; 笹川科学研究助成2020-6010

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