◆埼玉大学創立70周年記念事業◆「第3回リベラルアーツ研究セミナー『反形而上学的分子』の秘かな戦い-スイスでの博士論文合格体験記-」を開催
2019/6/26
6月21日(金)、教養学部主催の第3回リベラルアーツ研究セミナーにて、髙橋克也教授が講演を行いました。
今年始めにスイスのジュネーブ大学に博士論文を提出し博士号を取得された髙橋教授の合格までの研究活動の回顧、そしてカント哲学に関するご自身の博士論文の解説を行いました。
講演の前半では、ドイツと中央ヨーロッパにおける哲学的伝統の対立に焦点が当てられました。カントやドイツ観念論というとヨーロッパ近代哲学の根幹のように言われますが、実は19世紀のオーストリア=ハプスブルク帝国では「反カント」の旗幟の下、カントによって不毛だと批判された形而上学(存在の普遍的な諸原理を論理や思弁によって究めようとする古代以来の哲学)が擁護され追求されていたのです。この中央ヨーロッパの伝統は現在のジュネーブ大にも受け継がれており、そこでカントについて研究し発表することは「異端」的という意味をもちました。それだけに、かの地でよい結果を得られた髙橋教授の喜びは大きかったようです。
後半は、カント哲学の内容に踏み込んだ講演で、人間は自分の観念の世界に生きている、つまり先入見と偏見に満ちた世界に生きているという、このことの自覚を促す点に観念論哲学の変わらぬ重要性があるという指摘がまずなされました。では自分の認識のゆがみをどうやって自覚するのか。客観性とは何なのか。こうした問題に対してカントは一種の構造主義的発想(単純な幾何学図形の効用、対称性という形の重視など)で答えようとしたというのが結論でした。
難しい論点でしたが、「太陽と地球のどちらが『本当に』静止しているのか」を考えさせる簡単な実験や、カントの散歩の習慣がもっていた意味など、いろいろな話題と関連づけて説明がなされ、講演に親しみがもてるよう工夫されていました。
当日は熱心な参加者に恵まれ、発表の後は専門的で激しいやりとりも交わされました。
当日の様子
講演する髙橋教授
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